2019.5.19 嶋の大ばあちゃん(3)

『 先生、嶋です~』 。『 あ~、御無事でしたか 』。 平成7年1月の阪神大震災が起こった数日後のこと、嶋さんから自宅に電話があった。『 先生、頼みがあるんやけど 。地震でマンションも半壊して、住める状況でなく、娘の車でどうにか芦屋を脱出して堺に避難してきました。突然、永らく娘夫婦の家(偶然にも堺市内)で世話になるのも申し訳なくて、少し病院に入院させてもらえないですか 』 。当時、大阪労災病院では心臓リフレッシュ入院というシステムがあり、心筋梗塞の既往患者さんの外来のみでできない検査を1~2週間ほど入院してまとめて検査するシステムがあった。『 わかりました。明日、病院で婦長に相談してベッドの空きを確認して連絡します。』 翌日、事情を説明し、個室の空きに余裕があるとのことで部長、婦長の了解を得て心筋梗塞後のリフレッシュ入院目的で入院して頂くよう連絡をとった。『 悪いな、迷惑をかけます。今月いっぱいを目途に退院します 』。リフレッシュ入院目的で心臓の再チェック(種々検査)を行い問題ないことを確認できた。今でも印象深い思い出がある。着替えもさほど持って避難することもできず衣服の買い物に行きたいので外出して連れて行って欲しいと言われた。日曜日に家内と3人で病院近くの堺東の高島屋を案内した。衣服のフロアーでいくつかの品を選ばれ、対応した店員がそれらを預かってフロアーを回っていた。我々夫婦はこの二人から少し距離をおいて付き添った形になった。このフロアーだけでは目的が達せられなかったようで、店員に別のフロアーへの案内を打診し、結局は4人が揃って別階に行って買い物を継続することになった。私は心の中で 『 嶋さん、服は服でこのフロアーで精算するんですよ 』 と囁きながらお供していたが、店員も一言も発せず追従する様子が言葉では言えない杖をつきながら歩く嶋さんの迫力と凄味を感じ、そのオーラーを初めて味わった。最終的には、この店員が全てをまとめてくれた。今では外商のお得意さんが担当者に事前に連絡して購入するスタイルはあるが、一切、自分が何者であるか、地震で被災してきた者であるなどは言わず、その凄さを見せつけられた。『 この人は、やっぱり本物の凄い人だ!』 と感じた。今月いっぱいで退院しますといわれた通り、入院中に銀行の担当者が幾度と面会に来られ、家探しを頼まれていたようで、自分で設定された月末までに新たな家を決められ退院されて行かれた。何と綺麗な入院だったことかと感心させられた。その後、落ち着かれた時期に新居に招待された。