2018.8.3 熱中症

過去にない猛暑が続く日本列島であるが、熱中症患者が急増していると世間は大騒ぎしている。確かに死亡者も出ている状況であり、私が少年野球に夢中であった時代の夏とは比べものにならないほどの暑さである。しかし、相変わらず騒ぎ立てるマスコミ報道により高齢者の皆さんは、恐怖におののいて生活をしている毎日である。いわゆるマスコミのあおり運転である。連日、診察に入ってくるお年寄りは、『 この前、熱中症にかかりました。少しふらふらしました。』とか『 少しふらついたので熱中症かと思って救急車を呼んで救急病院に行きました。』などと熱中症の意味もわからず簡単に話されます。しっかり冷房を利かせ、水分を摂取されている状況で熱中症などかかるはずがない。そもそも熱中症は高温・多湿な環境に長時間暴露され、体温調節ができなくなった状況で発症する。以前は屋外の炎天下で水分補給せず、運動や作業をして発症することが一般的であったが、最近の猛暑では、節電し温度が高くなる通気性の悪い室内(キッチン、バスルーム)でも起こる(節電熱中症)ことが増えてきたようだ。しかし、熱中症の殆どはⅠ度~Ⅲ度あるⅠ度(軽度)である。熱や湿気により体温が少し上がり、水分不足(軽い脱水)のために、血圧が少し下がり脳への血流が減少し、一時的なふらつきやめまいを生じるのである。頭を低くして涼しい場所で冷たい飲み物でも摂ればすぐに回復する。こういった対応もせず、救急車をよんで病院に向かう者が急増しているのである。はっきり言ってこんな程度(軽度)を熱中症と位置づけてしまったことに問題があるように感じる。中等度になると38℃前後の発熱が生じ、頭痛や嘔気、嘔吐が生じる。こうなれば医療機関を受診した方が良いと思われる。重症ともなると、40℃前後の発熱と、内臓機能障害、意識障害が出てくる。致死率も30%ほどあり危険である。生存しても脳機能障害や腎機能障害などの後遺症を残す場合も多い。まあ、世の中の熱中症騒動は大袈裟すぎて怒りさえ覚える。なぜ? 実は私は大学に入学した1年生の時、重度の熱中症(熱射病)で入院したことがあるからである。テニス部に入っていた私は、授業が終わって午後(土曜日)から練習に参加。1年生ながら少し上手かったので、上級生の先輩方の練習台になった。代わる代わる次から次へと先輩とストロークの打ち合い。雨の中で練習をしているかと思うほどTシャツはビショビショになり、汗の雫をポトポトと垂らしながらの状態だった。途中、休憩することもなく、水を飲むこともなく約4時間。終わった時は、凄い脱力感で下宿に戻るのもふらふらだった。風通しの悪い6畳一間で大の字をかいて休んでいたが、徐々に発熱。倦怠感が強く、一夜を過ごす勇気がなく、下宿仲間に頼んで病院に連れて行ってもらった。かなりの運動量と脱水を訴えたが、その医者は風邪と診断した。下宿に帰って更に発汗が増した。冷蔵庫の中には飲み物もなく、少しの水道水を飲んで凌いだ。翌朝(日曜日)、下宿仲間が心配して部屋を訪れてくれた時には意識もうろう。体温は水銀計の最大42℃を示していた。大家さんの車で大学病院に運んでもらい、『熱射病』の診断で緊急入院。頸部、腋窩、鼠径部など氷漬けと大量の点滴。お陰で夕方には37℃台まで解熱し、気分も楽になった。採血での検査値異常があったのか(教えてもらえなかった)、その後一週間も入院することとなった。幸いにも脳障害をはじめとする後遺症もなく、その後無事に医学部を卒業でき、医者になることができた。これが熱中症である。 ちなみに、大変お世話になった下宿仲間は今でも親交を深めている。入院で必要な物品を色々と買い出ししてくれたり、走り回ってくれた向かいの部屋の立道君(現 東海大学医学部衛生学公衆衛生学教授)、様子伺いに部屋を何度も見に来てくれた隣の部屋の宮本君(現 佐賀大学医学部微生物学教授)、『お~い、生きてるかい?』と朝一で部屋に来てくれた田中さん(現 蔦の会 たなか病院院長)には大変お世話になった。今、後遺症なくどうにか生きておれるのもこの友人たちのお陰と感謝している。

2018.8.16 女子医学部受験生の減点入試・・・医師の65%は理解できる

東京医大の裏口入学問題が、女子医学部受験生の一律減点入試の問題に波及し、連日騒がしく報道されている。医師人材紹介会社の「 エムステージ 」が医師対象にアンケートを取ったところ、65%の医師は理解できると答えたようだ。長年、救急の現場でチーム医療をしてきた私としても同じ意見である。別に女性を差別する気は毛頭ないが、やはり妊娠、出産、育児で数ヶ月勤務に穴があいてしまうことは現場の残されたメンバーにとってかなりの負担になってしまう。それが、1人ならいざ知らず、複数となれば医療は崩壊してしまう。残された医師は、自分の受け持ち患者以外に休まれている女性医師の受け持ち患者を引き継いだり、担当していた外来も割り振って受け持ったり、救急患者の対応のための当直業務まで残された医師で穴埋めしなければならなくなる。精々1~2週間は我慢できるであろうが妊娠・出産・育児までの長期休暇の穴埋めは不可能である。当然、女性イコール妊娠、出産、育児ではなく、生涯、男性にも負けず働き続けるという女性もいるだろう。ここでは一般論として話を進めるが、現場を知らない無責任な部外者は非常勤の医師を雇えなどと言っているが、教師と違って医師は出産休養か病気休養者以外皆、どこかの医療機関で仕事をしている。例え、非常勤医を雇えたとしても、専門的な技能を要求される大病院では役に立たず、チーム医療もできない。いわゆるペーパードライバーがいきなり長距離のトラックを運転するようなもので医療事故が起こることが想定される。部外者は、殆ど口を揃えて「 女性医師が出産後も働き続けられるよう、医療現場が根本的な働き方改革を進める必要がある 」なんて綺麗ごとを言っているが、不可能である。この仕事は男女平等とかいう仕事ではないのであって、医師個人の権利を胸張って主張できるものではなく、命に関わる疾患を相手に時に時間との闘いをする仕事であって自己犠牲はつきものであると言える。勉強ができるのに不公平だといったレベルのものではない。ある意味、スポーツに似たところがある。女性であるという理由で甲子園を目指せない、大相撲を目指せないといったところと若干の共通点はある。TVで何度となく見るが、東京医大を受験失敗した女子受験生のインタビューが流され「 折角勉強してきたのに酷い。不公平は許されない。 」などと言っているが、そもそも、サラリーマンの子供などは授業料が高すぎて、私立の医学部受験の選択肢すらない訳であって、それを不公平と言わずして自分の受験失敗を棚に上げて情けない。こんな偏ったインタビューで医学部受験を捻じ曲げて報道するなど、相変わらず低能のマスコミのやることにはうんざりである。どうせ流すなら現場の医師の意見を報道すべきであろう。